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幽霊はいるかいないかわからないから幽霊だ 『超常現象の科学』 リチャード・ワイズマン著

超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか

 副題は「なぜ人は幽霊が見えるのか」。この副題からは、心霊現象とか、超常現象といったたぐいを科学的に解明している本のようにも見えます。しかし、事実はそのまったく逆であり、そういった「まか不思議なこと」がまったくのウソもしくは勘違いであることを証明しようとしているのでした。しかもユーモアたっぷりに。

 もしあなたが「幽霊なんて信じない」派だったとしたら、この本を読んで心もスッキリさばさばすることができると思います。占いとか心霊現象をばっさり、UFO研究家の矢追純一も真っ青です。ちなみに、この本にはあんまりUFOの話は出てこないのですが…。

 そして、もしもあなたが「幽霊は存在すると思う」派であれば、その怖さを増幅してくれます。
 実はこの本、科学といいつつも、心理学や脳科学に頼っているところがあります。要するに、幽霊を見たというのは思い込みもしくは錯覚として説明しているのです。つまり、霊感のある人や幽霊を見たという人は暗示にかかりやすく、思い込みによる錯覚を起こしやすい人であると…。
 しかし、霊感があるという人が暗示にかかりやすいことを説明していないし(その逆は説明しているのですが)、複数の人が同時に恐怖を体験したことに対しては説明ができていないと思います。

 著者が示す実験例はたとえばこんな感じです。20人を会場に集め、液体が入った瓶を見せて「この蓋を開けると強いミントの匂いがします。匂いを感じたら手を上げてください」と言ってから蓋を開けると、多くの人が手を揚げる。瓶の中に入っているのは無臭の水であるにもかかわらずです(206ページで観念運動として説明)。しかしこの説明は暗示をかけた場合であって、だとすると、幽霊が出るなどと全く思えないなような場面では人は幽霊を見ないことになってしまいます。でも、実際には普通の昼の道端とか、暗示的なものが一切なくても幽霊は登場するのですね。これは、私の体験と他の人から聞いた話から、そう考えるのですが。
 まあ、超能力とか幽体離脱、それと占いと予知夢については大いに納得なんだけど、心霊現象だけはどう考えても納得できる説明になっていない。人は理解できないものに恐怖を抱くわけですが、やっぱり怖いですね、幽霊だけは。
 といいつつも、この本は楽しい本です。いろいろとその場でできる錯覚の実験例も載っています。

 ところがです。最後の章のあたりでは、「ああ、そうだよなぁ」と、幽霊よりも怖い現実に私を引き戻してくれました。

249ページ
 この章でお話したようなマインドコントロールは、カルト集団の怪しげな閉じた世界に限られたことだと言えたら、いいのだが。それは事実ではない。じつは、私たちの日常のさまざまな場面で、まったく同じ説得の原則が働いているのだ。
 セールスマンは、売買を成立させるテクニックとして、「段階的要請法」を使う。政治家は異を唱える者を黙らせようとし、見られたくない情報から人の目をそらせようとする。商売人は、「自己正当化」の原則を縦横に使う。品物に対して支払う額が大きいほど、客はその買い物を正当化しようとして、売り手の言いなりになることを十分承知しているのだ。マリアン・キーチの信者は集団に他の人を勧誘することで、自分自身の信仰に自信を強めた。同様に広告代理店は、ある品物を買った客が、判断は間違っていなかったと自分を納得させるため、同じ品物を友人や同僚にも勧めることを知っている。

 結局そうなんですよね。私の場合、幽霊を見ても特に実害はなかったけど(時々思い出すと怖いけど)、30万円で建築本のセットを買わされたのを今思い出すともっと怖い、というか悔しい。もちろん、今もその本は家にあります。なぜか娘の部屋にね。殆ど開いていないけど…。
 それにしても、私はなぜ大金をはたいて何十年も開かない本を買ったんだろうか。

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