ビジネスの戦場で希望を見出すために 『僕は君たちに武器を配りたい』 瀧本哲史著
タイトルを見て、ずいぶんと右寄りの本だなあ。と思ったらどうやらそういう本ではないらしい。私の曲がった期待は大きく反れたけど、しかしビジネス書としてはそこそこ面白く読めたのでよしとしようではないか。
そう、この本はビジネス書なのである。しかも結構説得力があったりする。そして文章が解かりやいのだ。私なりに受け取った内容をかいつまんで言う、つまりこういうことらしい。
1.世界は新自由主義的な資本主義に移行した。
2.基本ルールが変わったのだから、以前と同じようにやっていれば、市場原理により淘汰される運命にある。
3.よって、この本に書いてある考え方に従い、自らをより高く売ることでより良い生活を勝ち取って欲しい。
〓 ビジネス版死の商人なのか?
要するに、著者の紹介する考え方というのが武器になりますよ、と言っている。そして戦いなさいと言っているわけだ。ちょっと待てよ、一体誰と戦うのだ。もちろん自分とではない、他の人たちとである。日本国内に限定しているわけではないが、同時に仮想敵国を設定しているわけでもない。
結局この本を読んでいないであろうバカな日本人たちと戦うために1800円で武器を売りますと言っている。こんなひねくれた読み方をする読者というのは私くらいだろう。でも、この本の題名に象徴されるように、大かたのビジネス書は武器商人により配られている武器と似たようなものだ。ビジネス上にある戦場というリスクだらけの世界から離れたところで富を得るという、経済が地盤沈下した時に必ず現れる商売である。だから、この手の本を買うときは、よほど注意したほうが良い。最近ではビジネス本バブルも少しは治まったようだが、それでも数多に出回るモドキ本の中から、このような良書?を見つけだすのは難しいと思う。
そして、武器を与えられるのは結局兵士であるということだ。だから、日本の若者がこの本に書いていることをみなで実践すると、若者の中で格差が広がるだけで、日本の経済的復興が成し遂げられるわけではないだろうと思う。経済復興するのは武器を売る側で、戦場では破壊と殺戮が繰り返されるだけなのだ。そしてこの本は、そもそもそういうことには言及していないのだった。
〓 悔しいがおすすめするのである
この本はさきほど書いたようにとても理解しやすい文章だし、内容的にも納得できる。しかし、全般的には従来のビジネス書に書かれていることを事例を交えて判りやすく解説しているにすぎない。といってしまえばそれまでなので、もう少し述べると、他の似非ビジネス書よりは多くのことを語り、そして本質を突いている部分は多いと思う。散々非難めいたことを述べていながらなんなのだが、深く読めば自らの糧になる武器が一つは得られるかもしれない。アンチビジネス書派である私にとっては悔しいが、お薦めしたくなる本なのである。
ところで著者は「武器を配りたい」などと物騒なことを言うくらいだから、さぞかし武闘派に違いないと思いきや、意外とおたくっぽい顔つきなのである。しかも年齢は不詳だ。『絶望の国の幸福な若者たち』を書いた古市氏よりも一回り上の年齢かもしれない。
『絶望の国の幸福な若者たち』は現代の若者によるニヒルな若者論であったが、その先がない、つまり武器にならない本であった。だから、『絶望の国〜』を読んで解決策が見いだせずに悶々としているならば、直後にこの『僕は君達に〜』を読むといいと思う。そうすれば、少なくとも絶望の国の中でどうやって希望を見いだせばよいかが解ると思う。ただし、希望を見いだすのは戦いの中でだけになるのではあるのだが………。
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