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新しい戦争のかたち 『ロボット兵士の戦争』 P.W.シンガー著

ロボット兵士の戦争

〓 戦争は起こるのか?

 最近、世界中がきな臭い。口には出さなが臭いは隠せない。尖閣諸島を挟んで中国では反日運動が盛んになっている。そういえば、この前、パキスタンの反米デモはどうなったんだっけ?おっと、それより竹島は大丈夫なのか?
 しかも日本はご覧の通り、相変わらず政局に明け暮れてもう領土問題どころではないようだった。やはり日本は平和なのだ。いまのところはね。

 世の中でもっとも紛争に繋がりやすい領土問題。一体なんで今なんだ。今まで誰も気にしていなかったのに。その間に韓国はちゃっかりGoogleMap上にせっせと書き込みしてバーチャル支配を整えていた。だからかもしれないが、次は実効支配の布石を打っている。
 中国は尖閣諸島を実効支配できていないし、GoogleMap上のバーチャル支配もできていないから少し焦っているのかもしれない。武力で制圧してでも自分のものにしたいと思っているだろうし、それはかつて日本がやったことの仕返しということで国民感情に訴えれば、国民の不満も外を向くと思っているのかもしれない。

それにしてもだ。日本の外交力は地に落ちた状態だ。竹島問題では国際司法裁判所に訴えるといいながら、尖閣諸島の問題ではその必要はないという。
尖閣問題で国際司法裁判は不要 玄葉外相が各国に説明へ(産経ニュース)
 ふつうはこれを二枚舌という。英語や中国語でも同様の単語があるに違いない。海外からみれば、日本はいよいよ三等国になりさがっとみるのではないか。強欲な中国がこの隙を見逃すはずがない。前回のブログ記事に記載した通り、中国では誰のものでもないものはただで手に入れるという考えを持っているのだ。尖閣諸島が日本のものか中国のものか、国際的に不確定であれば、何としてでも自分たちのものにしようとするだろう。前回の野田首相の失態に重ねて、これは彼らにとっては格好の材料になるはずだ。「日本政府は一貫性をもっていない。だから日本政府の主張は論ずるに値しない」と。

 最近の動向をみると、中国は最後は武力で尖閣諸島を奪取するシナリオを用意しているのではないか、とさえ思えてくる。国民を動かし漁船を尖閣に集結させそれを鎮圧するために軍隊が動く。戦闘行為ではない、国内の鎮圧のために軍が動いたのだと。そう、それは中国国内での出来事なのだ。なぜなら、尖閣諸島は中国の領土だからだ。と。
 しかし、それで、戦争になるかといえば、すぐには戦争局面とはならないはずだ。そんな暴挙が中国国内でも許されるはずはない。ただし、それは今の中国にいえることで、軍部が中枢部に入り込んでしまえば、そうとも言えなくなると思う。

〓 その先の話

 いずれ世界的に戦時局面に入ることはおそらく避けられないだろう。竹島や尖閣諸島の問題は、その一部に過ぎない。なぜそう言えるのかは、以前書いた記事を参考にしてほしい。

 ここではその先の話である。戦争の在り方が、従来とは違ったものになるだろうという話だ。ここに紹介する本『ロボット兵士の戦争』は、アメリカ軍にどのようにロボット兵器が浸透していったか、そして、それがどのような問題を引き起こしているかを示したレポートだ。単行本で650ページもある。それにもまして、装丁が地味だから硬い本だと思われてあまり売れていないのかもしれない。
 確かにページ数は多いが、書かれている内容を簡単に要約することはできる。とにかくもう戦争自体が以前のような軍人同士の戦いではなくなりつつあるということだ。
 すでに実践に使われているロボットを紹介しよう。一つはUAV(Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれる、無人飛行機である。主に偵察用に使用されていたが、現在では攻撃能力も備えている。操縦はアメリカ西海岸にあるゲームセンターのようなコックピットから行う。
 もう一つは、PackBotと呼ばれるキャタピラで駆動する地雷除去用の遠隔操作ロボットだ。ロボット掃除機ルンバを製造販売しているiRobot社の製品である。福島原発事故で使用され、内部の映像を撮影したときもこのロボットが使われている。そして、PackBotは通常SonyPS2のコントローラを使って操作する。
 最初米軍はこれらのロボット兵器導入に難色を示していたらしい。当時軍の中枢にいた人間が古すぎたのかもしれない。しかし、主な理由はオスプレイなどの旧来からの友人兵器開発に多くの予算を注ぎ込んでいながら、安価なロボット兵器に予算を注ぐのは不都合であったとうことだ。日本でいう「もんじゅ」と同じ状況だったのだろう。サンクコストに縛られていたのである。
 最近では、そのような呪縛からも逃れ、アメリカではロボット兵器の開発に多くの予算がつぎ込まれている。そしてそのアメリカ国防省が注目していたのが日本だ。

136ページ
2004年、DARPAは軍用ロボットの最も望ましい姿に関する研究に資金を提供した。そして「ヒューマノイドを実戦配備すべきである。早ければ早いほどいい」という結論に達した。
 人間の姿はロボットが取りうる形のひとつにすぎない。ロボットの大きさに制限はない。ホンダが一億ドルを超える資金を投じて開発しているロボット、アシモは、人間とほぼ同じくらいの大きさだが、京都大学発のベンチャーが開発したクロイノはわずか35センチだ。

353ページ
 こうしたロボット技術への傾倒から、日本はグローバルパワーの予測において過小評価されてきたという意見さえある。とくに熱心なのが、インド人でビジネスおよびグローバル・リーダーシップの教授、ブラブフ・グプタラだ。「今、21世紀は“アジアの世紀”と予測するのがはやりだ──中国が経済的にも軍事的にも来るべき大国とされている。私はインド人なので、未来についてのこうした理論を支持していなくても意外ではないはずだ。しかし、私がインドについてもほんの少し楽観的なだけで、むしろ日本に投資しているというのは、意外に思われるだろう」
 日本についての見方が変わったのは、2005年の愛知万博に参加してからだと、グプタラは言う。来場者はおよそ2200万人、日本のロボット工学の動向がすべて展示された。「とくに、日本政府の努力にもかかわらず、日本経済が25年以上前から低迷していることことを考えれば、私の選択は意外かも知れない。ではなぜ、私は日本に投資しているのか?……ロボットのせいだ!」。デーブ・ソンタグも同じ意見だ。「日本はロボット工学では最高だ……自国の戦略的可能性にまだ気づいてすらいない」

〓 さらにその先の話、兵器は進化する

 歴史を紐解くと、大きな戦争があるたびに軍事兵器は大きく進化する。この本『ロボット兵士の戦争』で著者はやがてターミネーターのように人間とロボットが戦争を始めるのではないかと危惧するほどだ。この点について議論するつもりはないが、ロボットは決して戦争はしないと私は信じている。なぜなら、戦争は生物としての本能によるもので、人間特有のものだからだ。カーツワイルは「ポストヒューマン」でロボットが新たな種としての炭素生物となりうると予測したが、それがありえないであろうとは、以前記事で述べた
 しかし、ロボット兵器が自動殺人マシンになることは考えられる。実際に韓国でそれは売り出されていたという。

248ページ
 そうした文化による考えかたと影響の違いが、戦争で何を許容できると考えるかの違いにも影響する。無人システムを武装化して人間を撃つ能力を与えるかどうかは、おそらくアメリカのロボット工学界で最も議論を呼ぶ問題だろう。アジアでははるかに異論が少ない。現に、韓国は2004年、ライフルを持ったロボット狙撃兵2体をイラクに送り込んだが、議論はほとんど起きなかった。命中率は「100パーセントに近い」とメディアは報じた。
 さらに注目に値するのは、サムスン製の「自動監視銃」だ。むしろ高品位テレビのメーカーとして知られる同社は、自動小銃を2台のカメラ(赤外線カメラと望遠カメラ)およびパターン認識ソフトのプロセッサーと一体化させた。この銃システムは、動いている標的を1.6キロ先から特定し、分類し、破壊できるだけでなく、ブログメディア『ギズモード』のルイス・ラミレスの話によると、「拡声器も搭載していて、近くを歩いている愚か者に、木っ端みじんにされる前に降伏するよう呼びかける」。韓国は、北朝鮮との250キロにおよぶ非武装地帯(DMZ)で、ロボ機関銃を警備にあたらせる構えだ。
 サムスンがこの新製品用に作ったプロモーションビデオを見れば、考え方の違いはさらに鮮明になる。ロボ機関銃がこの被験者である人間を自動的に追跡し、被験者はあちこち走り回ったり低木の影に隠れたりしてロボット銃をかわそうとするが、うまくいかない。『ターミネーター』シリーズを見慣れた欧米人はとまどってしまうが、韓国のコマーシャルはもう少し軽いノリだ。人間を追いかける現実の自動機関銃の映像と、ディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の血湧き肉踊るテーマ曲が組み合わされている。

 しかし、アメリカは引き続きロボット開発を続けていることは明白だ。次の動画と記事によりそのことがわかる。

・ちょっと不気味な米軍の4つ足ロボットの最新動画公開 人間について行く様子も

・米国:今世紀末までに何千機もの無人ロボット航空機(ドローン)により世界の空を監視

 これらの事実からロボットによる戦争は拡大することが予測される。アメリカは合理主義であり、発明は常に何らかの役に立たなければならないのだ。原子爆弾が製造され日本に落とされたのは、戦争を終わらせると同時に原爆がそのために製造されたからだと考えるのがアメリカ流の合理主義である。ならば、ロボット兵器により兵士が死なない戦争を実現するのは、アメリカにとっては当然の帰結だ。アメリカ軍はそのためにロボット兵器を開発しているのだ。ロボット兵器があるから戦争が起きるのではない。もともと戦争の原因は別なところにあり、その時のためにロボット兵器は開発されたのである。事実がどうであれ、それが合理的な解釈というものである。

〓 それで、日本はどうなる?

 日本はロボット開発では先端技術を持っている。特に人型ロボットの分野ではずば抜けている。アメリカはこの技術が喉から手が出るほどほしいのではないか。つまり、ロボット技術のニーズは既にあるのである。なぜ日本政府はこれを世界に売り出そうとしないかが不思議なのだ。不況の時期に経済を再生するのはいつも戦争景気なのである。名目はどうあれ、日本はロボット技術で復興するべきなのだ。そうしないと、いずれは兵器開発などけしからんとか、平和目的でなければロボットを開発してはいけないとか、そんなことを言ってる場合ではなくなるのである。

 これはあまり知られていないことかもしれない。かつて戦時中1926年に八木アンテナは開発された。国内外で特許をとり、それをイギリス軍やアメリカ軍が採用して、レーダーの性能を飛躍的に向上させたのだ。しかし、日本では「敵を前にして電波を出すなど暗闇に提灯を燈して位置を知らせるも同然と殆ど注目されず、その存在を知る者も殆どいなかった」という状態だったという。

 日本はロボット技術でも同じ轍を踏もうとしているのではないか。ロボット技術は幅広い。兵器だけではなく多くの分野で応用がきくのである。なぜそこに政府や財界は注目しないのか。日本とは、まったく不思議な国なのである。

戦うコンピュータ2011

最後に、ロボット兵器そのものを知るために日本人の著者が書いた本を紹介する。2005年に同じ題名で書かれた本の全面改定版である。いかにこの分野の進化が早いのかがうかがえる。

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