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いまだから知りたい中国 『ひねもすのたり中国語』 相原茂著

〓 いま中国が騒がしい。そんなときだからこの本を読むと面白い。

ひねもすのたり中国語―日中異文化ことばコラム

 いま、野田内閣の外交失態のせいで、中国が内乱状態だ。尖閣諸島の問題だ。石原都知事が尖閣諸島を買い取るといったときに、丹羽中日大使が警告したことは正しかった。それが今になって露呈した形である。どうも日本人は、相手のことをよく調べもせずにことを構える癖があるらしい。まるで、かつて太平洋戦争で日本軍がなした失敗の本質を繰り返しているようである。

 紛争は互いの認識の違いから発展する。互いの考え方の違いをそのままにしているとますます状況は悪化する。この本には中国人と日本人の考え方の違いでどれだけの多くの紛争が起きたかを綴っている。ただしそれは男女間の問題だったり、夫婦間の問題だったりと、わりと平和な話題ではあるのだが。

 たとえば、日本では恋愛対象の人に高価なプレゼントを贈り、相手が快く受け取ったら交際の申し入れを了解したと考えるのが普通だ。ところが中国の女性にはこのような考えは通用しないらしい。もし下心をもって贈り物をするのであれば、そのことを宣言する必要があるのだ。つまり「これをプレゼントするからその代わりに私とつきあってください」と、はっきりと告げる必要がある。そうしないと、相手の女の子は「わたしがかわいいからプレゼントをくれたんでしょ」くらいにしか思わないという。
 このような中国の文化を、本書では以下の俗語で紹介している。
「不要白不要,白要谁不要」
本書は中国と中国語に関するエッセイだ。だから、中国の諺や言い回しが頻発する。いちいちピンイン(発音記号)も記載してあるのがありがたい。ところで、この俗語の意味は「ただでもらえるものは誰だってもらう」といった意味合いらしい。日本での「ただほど高いものはない」という俗語と全く逆である。

 ほかにこんな文化の違いも紹介されている。「お前の父親は犬だ」あるいは「おまえは犬の子供」というのが中国では最大級の侮蔑用語らしい。だから、ソフトバンクのCMを見て、中国人はみな一様に驚くという。
 また、飲み会などの誘いを受けたときに、うっかり「犬に餌をやらないといけないので」などといった理由で断ってはいけない。そんな理由をつけたりすると「誘ったほうは犬以下なのか」という解釈になるのだ。嘘でもいいから、誘った相手の重要さを示す理由をつけなければいけない。たとえば「その日は遠いところから親戚が来るので車で迎えに行くのです」と、年に一度か二度しかないようなイベントを理由にする。すると相手もそんな重要な用事があるなら、と納得するわけだ。つまり中国では、相手のメンツを重んじることが、最大の誠実さなのである。

 ということは、今回野田首相がとった措置というのは、中国にとってみれば最大の侮蔑とうつった、と考えて間違いない。何しろ、胡錦濤主席中国代表が「尖閣諸島の購入は認めない。無効だ!」と述べた翌日に「島を購入する」と言ったのだ。これでは、胡錦濤主席の面目は丸つぶれである。だから、中国政府からすると、中国国民が反日感情をむき出しするのは、日本が対応を誤ったからだ、という論法になる。

 野田首相が胡錦濤主席と会談したいと申し出た。野田首相は「仲良くやりましょう」といった。胡錦濤主席は「尖閣諸島の購入を認めない」といった。いわば話し合いで解決しようとすり寄ったのだ。ふつうならトップ同士で協議を進めるところである。ところが話し合いの席をつくらずに、相手の要求を拒否したわけだ。中国からすれば、もうむちゃくちゃである。おそらく中国国民からすれば、全く理解に苦しむ行動に見えただろう。日本は中国に喧嘩を売ったくらいにとられているのではないだろうか。

 いまとなってはもう遅いが、本来は「主席の言葉を重く受け止め、購入は見合わせる。代わりに中国国内の沈静化に尽力し欲しい」くらいの対応がよかったのではないか。いずれにしても、互いのトップが話し合いのテーブルにつきやすい状態をまずは模索するべきではなかったか。

 どうやら、本編が飛躍してしまったようである。しかし、言葉に文化は宿る。そう考えるなら、この本はかの中国を知るために非常に参考になる本なのである。尖閣問題は別としても中国とかかわりの深くなりそうな方には是非一読をお勧めしたい。もちろん、中国語を学習中の方には絶対おすすめである。

ちくわを食う女―中国語学者の日中異文化ノート

 そういえば、同じ著者の「ちくわを食う女」も以前読んでおもしろかったので、紹介しておく。

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