無料ですぐに読めて面白い電子書籍 『ブラック・ジャックによろしく』 佐藤秀峰著
稀に本を読んでいて眠れなくなることがある。多くの人にはそんな経験があると思う。しかし、眠れなくなるほど面白い本というのは、それほど多くない。本と読み手との相性を考えればなおさらのこと、夜中まで睡魔を遠ざけてしまう本に出会うことは滅多にないはずだ。
そして、私は最近では殆ど漫画を読まなくなった。ところが、今回その漫画は電子書籍であり、そして無料だった。そんなことでもないかぎり、私は漫画を読むことなどなかっただろう。
この『ブラック・ジャックによろしく』は全部で13巻。ちょうど1冊の文庫本を読むくらいの時間で読めそうだ。そう思って、私はこの電子書籍アプリをダウンロードした。このアプリにデータそのものは含まれていない。データは後から一巻ずつダウンロードする。そのデータをダウンロードするためには、WIFIでも1分ほどの時間がかかる。だからこれからこの本をiPadなどで読もうとする人は、最初から全巻をダウンロードしておいたほうがいい。一巻を読み終えた後に、次の巻をすぐに読めないのは、苦痛に思えるに違いないからだ。とにかくこの本はそれくらいにおもしろかったのだ。私にとっては。
第一巻目では、斉藤英二郎が研修医のとして永禄大学付属病院に赴任する場面から始まる。研修医は給料が安い。月給3万8千円。生活を成り立たせるためには、別な病院で当直のアルバイトをするしかない。勢い研修医は全く暇がない。苛酷な毎日を過ごすことになると言う。しかしこれは、こらから展開する日本医療の不都合な現実の小さなエピローグでしかなかった。
救急医療、延命治療、心臓外科、ガン治療、小児科、精神科、と、それぞれ研修医としての赴任先で日本医療がかかえる矛盾にぶち当たる。そうしながら斉藤英二郎は医師として成長していく、という話だ。テーマは、後になるに従い重く複雑になっていく。
ふつう、第一巻目を布団の中で読むと、2巻目くらいで寝てしまうのである。しかし、今回はそれが出来なかった。はっきり言って、私にとって読書は時に(とういうか大体の場合は)睡眠薬代わりなのだが、今回ばかりはまるで覚せい剤のように作用した。うーん、結局、全巻読み終わったのだが、できればまだ続きが読みたいのである。
翌日、ネットで検索すると、『新・ブラック・ジャックによろしく』が発売されている。しかし、電子書籍では発売されていないのでは。と思ったら、実は電子書籍でもすでに発売されている。どうやら、佐藤氏は実験的に電子書籍の販売を開始しているようだ。自前のサイトをつくり、そこで販売しているのである。
このサイトではまず会員になり、ポイントを購入するとそのポイントで電子書籍を購入できる。1ポイント1円。ちなみに『新・ブラック・ジャックによろしく』は100ポイントで期限付きのストリーム版電子書籍を購入できる。つまり、なんと1冊100円だ。ダウンロード版は200ポイント。
ストリーム版はWebブラウザで閲覧する。通常のWebで閲覧できるので、マルチデバイスに対応し、一度購入した書籍は、PC,iPhone,iPadのどれからでも閲覧できる。ただしAndroidは未対応。iPadでは、SafariとChromeから閲覧できたが、iLunascapeはよく落ちるしOperaからは閲覧できなかった。iPhoneもほぼ同様。
ダウンロード版はPDFファイル形式らしい。3G回線の通信環境を持たないiPad用に用意したのだと思われる。
購入する前には、試し読みができるようになっている。ものによって違うのだろうが、『新・ブラック・ジャックによろしく』の場合は前半の100ページほどが読めるようだ。
電子書籍の購入方法や対応ビューアについては、ホームページのフッタにある「初めてご利用の方へ」に載っている。ちょっと入口がわかりにくいが、会員登録の画面はフッタが見えやすい配置なので、そこで気づく人は多いだろう。
『ブラック・ジャックによろしく』を読んだ後、『孤高のメス』を観た。
1980年、小さな町に一人の外科医が赴任する。その外科医は日本の地域医療を向上するために、この小さな町に赴任してきたのだった。たった一人の医師がその町の医療の在り方を変えていく。その姿を見ていた一人の看護師。この看護師の一人息子がやがて医師になり、この小さな町に戻ってくる。そこで母の看護師時代の日記を見つける。このドラマは街に帰ってきた若い医師がこの日記を読むところから始まり、過去を翻っていく。
現代医療の問題を扱うものではなく、1980年代の問題であった脳死と生体肝移植がテーマとなっている。しかし、大学病院が中心となりコントロールする、「白い巨塔」の時代からある医療のあり方も問題として扱っている。
そういえば、『ブラック・ジャックによろしく』でも、やはり大学病院の覇権が及ぼす日本医療の問題を突いていた。日本医療の根本的な問題はここにあるのかも知れない。
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