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安心脳の日本人は挑戦脳を獲得できるのか 『挑戦する脳』 茂木健一郎著

挑戦する脳 (集英社新書)

 以前、「日本人はある脳内物質が少ないために、安全を重んじる頃向にある」といった内容の記事を読んだ事がある。逆に言うと、日本人はリスクを回避したがるとうことなのだろうか。日本がアメリカと比較してイノベーティブな製品を世に送り出せないでいる理由もこれで説明できる。私はこの説を読んで、納得したというより、なかば安堵のような心持ちを覚えたことを記憶している。

ちなみに、こんな話もある。

 新発見、脳内物質「ジャパーミン」

〓 相変わらずおとなしいのか日本人

 冗談はさておき、日本もグローバル化の波にさらされてしばらくたつ。いい加減日本人の引っ込み思案は解消されたのではないかと思っていたが、最近こんなことがあった。
 30名ほどの社内パーティーの席で、カラオケが用意されている。
 ある時間からカラオケを歌ってよいことになるのだが、最初は誰も歌おうとしない。しかし一人目が歌いだすと徐々に、しかし譲り合いながら曲が入っていく。

 実は私は大勢でカラオケに行ったのは久しぶりだった。そして、今の人はカラオケに慣れているからマイクの奪い合いになるのではないかと危惧していたほどだ。しかしそんなことはなく、以前の日本人と変わらずみなシャイなのだった。やはり日本人のこの性格は変わらないのだろうか。

〓 掛け声だけは高らかに「日本を取り戻す!」

 しかし、最近の国内を見ていると人々の言説の中には変化が激しいものもある。昨日防衛費1000億円上乗せが決まった。いつの間にか日本の国防が重要課題となっている。ブロゴスでは勇ましい意見が多い。そう言った人々も、やはり以前と変わらないシャイな日本人なのだろうか。
 よく考えたら、やはりそこにも安全、安心という志向性があることに気づかされる。中国や朝鮮が攻めて来たらどうするか? 彼らが述べるのは、きわめて確率の低い危機に対する過剰な準備に思える。

 自民党のキャッチフレーズは「日本を取り戻す!」である。何から何を取り戻すのかよくわからない。しかし、自民党が55年体制に復帰するのを目指しているのはその政策からおぼろげながら見えてくる。
 みながこの曖昧模糊としたキャッチに飲み込まれるのは、やはり安全と安心を求めているのだろうと思う。オバマ大統領の「チェンジ」と、何と対照的なのだろうか。「日本を取り戻す」とは、変えるのではなく、元に戻すというこは明らかだからだ。日本人はこの言葉に、故郷に帰るような安堵感を憶えたのかもしれない。まるで何かに挑戦しようと都会に出た若者が、疲れ果てて故郷に帰るという1975年から85年に見られたUターン現象を思い出す。

〓 安心脳の日本人は挑戦する脳を獲得できるか

 日本人は安心を求めるがゆえに、挑戦することが苦手なのだ。つまり日本人の脳は「挑戦」を求めるのが苦手なのではないか。そう考えながらこの本を読むと、茂木氏が言いたいことが見えてくる。本来の脳は、挑戦することに喜びを見出すものだ。そうやって脳に刺激を与えることで、人生の喜びを発見できる。おそらく茂木氏はそういっている。

 この本は、集英社の「青春と読書」への寄稿を一冊にまとめたものらしい。中身は脳科学に関する細かい話ではない。もっと大雑把なエッセイである。いわば、若者への訴えかけである。自身も日本社会が住みにくいと考えているようだ。挑戦する者にとって、日本は極めて不適格な社会なのである。

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