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クラウド化した世界の次に来るもの 『MAKERS』 クリス・アンダーソン著

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

 世の中というのは意外と知らないうちに変わってしまっているものだ。そもそも携帯電話がポケットに入るサイズになったり、小学生が持っていたりすると言う事だけでも、20年前は想像もつかないことだった。ところが、スマートフォンの出現はどうだろう。iPhoneやiPadがたった一つの企業から突然出現し、これだけ短期間に普及するなどと誰が予測できただろうか。スティーブ・ジョブズは「宇宙にインパクトを与える」と言ったそうだが、あながち誇大妄想とも言いがたい。彼がまだ存命であれば、ひょっとして本当に宇宙にインパクトを与える何かをするのではないか。そう思えてくる。
 今はそういう世の中だから、私達は次に何が来るのか常々心に止めながら人生を歩むべきだ。『MAKERS』を読みながら、そんな思いがふつふつと蘇る。

 今年(2013年)初頭の一般教書演説でオバマ大統領は、3Dプリンタがアメリカの製造業復活の鍵を握ると述べた。はたして、オバマ大統領がこの本を読んでその発言に至ったのか。ではないにしても、このオバマ大統領の発言が『MAKERS』の重要性を補強している。
 なにしろ、3Dプリンタは工業製品を作る工程や仕組み自体を変貌させる可能性があるという。宇宙を変えるほどではないにしても、世界を変える可能性はあるだろう。

 この本が述べるのは主に次の3つだ。1つ目は、3Dプリンタによる工業製品のマス・カスタマイゼーション。ただしこれは、従来の選択によるマスカスタマイゼーション、つまりDELLがPC販売で実現したBTO(Build to Order)とは全く違う。複数あるものから自分に合ったものを選択するのではなく、自分にあわせて製品を作るあるいは購入することができるというものだ。
 2つ目は、ビットとアトムの融合。それは、従来のネットゲームや仮想空間などとは全く異なる人の結びつきをもたらす。事実としてそこにしかないものであっても、形状のみについて言えばスキャニングし、そのデータをネットを介して特定の人に送ることができる。例えば私が造ったこの世にたったひとつの陶器の置物を、地球の裏側にインターネットで送り届けることができる。しかも幾つもの複製を作れるうえ、受け取った側はそのデータを加工して自分用に変更を加える事も可能だ。ビットとアトムの融合により、ロングテールの世界がより具体化する。
 3つ目は、ロボティクスによる組み立ての自動化。Googleが出資するテスラ・モーターズは最新鋭の汎用ロボットと生産ラインを持っている。生産ラインを変更することなく、シャーシやボディの形状を変更した車が生産されている。これはロボットが主にソフトウェアで駆動するようになり、マンマシンインターフェースが柔軟になったことで可能になっている。

 私は、この本が提案する明るい未来ではなく、もう少し悲観的な世界観に陥ってしまう。つまりそれは、この流れがより人類を排除する、ということだ。レイ・カーツワイルが述べた炭素生物。つまりポスト・ヒューマンに至る過程に合致するのだ。それは、映画「ターミネーター」あるいは「AI」あるいは「iRobot」に至る過程といってよいかもしれない。
 現在は下請けが作る部品は、今後3Dプリンターによって機械が担うことができるようになるだろう。そして、大手の製造業者が行っている組み立て工程は、ロボットが担うことができる様になる。さらにサプライチェーンと販売はネットによって賄われる。本書では言及されていないが、M2M、つまりロボットとコンピュータのコミュニティが新たなクリエーターの役割を人類から奪い取るかもしれない。機械が人類から仕事を取り上げる様子は、この本と同時期に出版された『機械との競争』にも描かれている。
 確かに其の著書『ポスト・ヒューマン』では、あくまでも人類がパーツとしての炭素生物へ移行する過程しか描かれていなかった。人類がマシンと融合しながらやがて有機体として機能が排除されていくというものだ。しかし、この『MAKERS』から見えてくるのは、人類が子孫を継承するが如く、機械が自らの複製を生成する可能性をより高めているという現実だ。今我々は、その分水嶺に至っているのかもしれない。

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