ゼネコンの談合がなくならない理由 『鉄の骨』 池井戸潤著
いまは「半沢直樹」の高視聴率が日本の世相を表しているなんて言われたりする。もちろん私もピールをぐいっと飲みつつあれを観てスカっとするのだが、それだけでは飽きたらず本まで買って読んだ口だ。だからこの際、池井戸潤の他の本も読んでみたくなる。そう言えば最初に読んだ彼の本は『空飛ぶタイヤ』だった。あの時も同じことを思い、「半沢直樹」の原作『オレたちバブル入行組』を読むか悩んだのだが、なんだか名前がコメディのようなので敬遠した記憶がある。人を顔で判断してはいけないように、小説も名前だけで判断してはいけないのだ。
ちなみに今週から日曜ドラマの「半沢直樹」は後半に入る。小説のほうだとシリーズ2作目となる「オレたち花のバブル組」に切り替わるので、いままで見ていなかった人は今週から観てもいいと思う。
しかし、今回読んだ本は名前からある程度想像はついた。『鉄の骨』とは要するに鉄骨のことである。こちらはこちらでヒネリがないといえば確かにそうだ。[池井戸潤+鉄骨]となれば当然[ゼネコン+談合]の話になることはおおかた予想がつく。
最初のページをめくると、場面はマンションの工事現場から始まる。富島平太はコンクリートの打設中に作業員の田巻がタバコを吸っているの発見する。富島が注意すると、田巻は打設中のコンクリートに吸殻を投げ入れた。それを見た富島は怒り、田巻を殴ってしまう。富島は業者にコンクリートに落ちた吸殻を拾うように命じる。僅かなゴミでも強度に影響するからだ。
本当にケンカになりそうになったが、所長の永山徹夫が間に割って入り事無きを得た。所長は吸殻を取り除かずそのまま打設を再開した。
納得できない富島は永山に食い下がる。
「この壁、どうするんですか。タバコ入ったままなんですよ」
永山は答える。
「この業界ってのはな、清濁併せのむってのが必要なのよ」
この永山の言葉は後々の伏線になっている。富島はこの現場が竣工する直前に業務課に移動になる。通称談合課。そこで富島はまさに清濁併せのまされるのだ。
「半沢直樹」と比較するべきではないかも知れない。しかし、あえて比較するなら、勧善懲悪でもないし不正を正すでもない。つまり、「半沢直樹」ほどのスッキリ感は期待しない方がよいだろう。それでも、ゼネコン特有の談合の構造がどのように形作られるかがよく判るという点では面白い。それと同時に、だれが正しく、誰が間違っているのかが、よくわからなくなる。業界を守るためなのか、組織を守り生き抜くためなのか。それとも公共の利益を守るためなのか。
最近は公共工事の談合事件を聞かなくなった。もし本当にクリーンな入札になったのだとしたら、ゼネコン業界はまさにこの『鉄と骨』のような苦悩のプロセスを経てきたのかも知れない。
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