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アンダーグラウンドへの旅路 『漂白される社会』 開沼博著

漂白される社会

 すごく新鮮な視線で社会の裏側を捉えた本。しかし、捉えた先に付いている獲物は実にグロテスク。まるで深海魚。怖いもの、不気味なもの見たさにこの本を読む。

 その立ち位置は、妖怪を学問として追求することと、心霊現象を科学的に解明しようとすることの、ちょうど間にある、ある種の淡い境界線上の向こう側の話に近い。セックスを学問として追求し、暴力を科学的に解明しようとするそのフィールドをリアルな世界に展開している。日常のリアルにはない、見えないキリトリ線の向こう側の世界へようこそ。

全部で5部の構成。中身も濃いが、厚さも充分。

〓第一部 空間を超えて存在する「あってはならぬもの」たち

 昔日本には売春島なる島があったとさ。じつは今でもその「島」自体はある。しかし高度経済成長時代からバブル期にエレクトしていたその島の産業は、バブル崩壊とともに萎んだそうな。この島が捉えていた原始的な需要はいったいどこに消えたのか。需要が消えるはずもなく、かつてのバブルの浮世が消え去っただけだという。そして若い女性は其の島からすっかり消さったとさ。
 場所を変えて、其の供給者は東京のなかにノマドとして存在しているそうだ。第二章で開沼博は、東京池袋で出会ったセックスノマドワーカーの実態をレポートしている。

〓第二部 戦後社会が作り上げた幻想の正体

 アンダーグラウンドなビジネスは、全てが詐欺めいているわけではない。其のギリギリのところに誰も思いつかなかった人間心理的なイノベーションが存在する。しかし、実は昔からあったビジネスが形態を変えたような部分もある。シェアハウスは高級たこつぼ部屋。そして生活保護受給コンサルタントなるものの存在を明らかにする。

〓第三部 性・ギャンブル・ドラッグに映る「周縁的な存在」

 ここでふたたび正統アンダーグラウンドな世界へ。どこかで裏社会に通じる格子戸をもつこれらのアディクション(嗜癖)と、普通の人々との接点を探る。

〓第四部 現代社会に消えゆく「暴力の残余」

 最近になって、右翼左翼と騒がれるようになったが、1960年以降にしばらく続いた日本の闘争は、このところ全く見なくなったと言っていい。先月は沖縄米軍基地でオスプレイ配備反対デモがあったものの、殆どが年寄りなのは地域性によるものなのか。その年寄りたちがどうなのかは知らないが、しかし、当時の過激派はいまでも存在する。ただし、漂白され、過激ではない過激派として。

〓第五部 「グローバル化」のなかにある「現代日本の際」

 最近外国人が増えた日本。実際には彼らは正式な形で日本に同化することが難しいらしい。そのために、其の存在自体がアンダーグラウンドに潜むことになる。国際社会に間口を開きながらも、其の中に入った途端、際(キワ)へと押しやられてしまう。

 この長い旅路のおしまいのページには、次のように書き添えられている。

 かつてあったような明確な達成目標や物語・歴史観が、社会に設定されなくなりつつある。
 「自由」(例‥もっと民主的になれ、カネをくれ、海外に行きたい)や「平和」(例:暴力がない社会を、安心して暮らせる街を)は行き先を見失い、ただアディクショナルに「自由」や「平和」を求めるなかで、「漂白」の無限増殖運動は始まり、続いてゆく。
 「漂白される社会」 の中で、私たちはこれに抗うことができるのだろうか。そもそも、その「快適な社会」のあり方に抗うべきなのか──。
 その答えは新たな 「旅」の中でしか見出せないと思っている。

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