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何が1960年以降の日本人を変えてきたか 『日本人には二種類いる』 岩村暢子著

日本人には二種類いる: 1960年の断層 (新潮新書)

 時々、自分が不義理であったり個人主義者であったり、あるいは子供に対して親として何も伝えていなかったのではないかと愕然とすることがある。そして、時には団塊世代を疎んだり、ロスジェネ世代を憐れんだり。

 先月、大学の同窓会に出席したときに、自己紹介をするメンバーの風貌を見ながら、隣にいた同期生が私にこうささやいた。
「彼らはオレらより年が若いのに、なんであんなに老けているんだ…」
 言われて気づくと、確かに我々より10歳年下と思われるその同窓生は、揃いも揃って老け顔であった。おそらく彼らは社会人になるころにバブルがはじけたために苦労したのだろうと思う。それに比較すれば、私たちの世代は就職から今に至るまであまり苦労のないサラリーマン生活を過ごしてきたことを思い知らされる。もっとも、団塊の世代はもっと苦労がなかったと思われるのだが。もちろん、団塊世代は長時間労働などの苦労はあっただろう。しかし、それは100%がモーレツというわけでもなく、給料が増え続けたことを考えれば将来の不安のない、むしろ希望に満ちた生活を送っていたことだろう。

〓 1960年の断層

 この本の副題は「1960年の断層」となっている。この副題が私の琴線を叩きまくったのだ。
 私の生まれは1960年代である。著者は1960年前に生まれた世代を「旧型」、1960年以降に生まれた世代を「'60年型」と呼んでいる。つまり私は「'60年型」の先頭のほうにいるらしい。
 とにかく、何かが切り替わろうとすると、私たちの世代はその切り替えの影響をもろに受ける世代だった。たとえば年金である。この年金制度は1961年に現在の制度に改正されている。大幅な改正だったから、新たに制定されたといってもよいだろう。私の人生での中ではもろにこの影響を受けている。まず、年金受給の延長は、私が65歳支給となる最初の世代である。そして、支払いと受給のバランスは、私の世代を境にマイナスに転じるという。つまり、私は払った分の年金しかもらえない、損も得もしない世代である。もっとも、これは試算上の話だから、場合によってはもっと少なくなるかもしれないし、多いかもしれない。しかし、私たち以降の世代が私たちよりも多くの年金を獲得する可能性がほとんどないことに変わりわないだろう。

 日本の生活習慣や食文化などについても、大きく切り替わったことがこの本に書いてある。たとえばインスタントラーメンは60年型である私が小学校の頃に普及した。カップ麺が普及したのは中学校の頃だ。いわば私たちの世代は、あらゆる新しいもの、新しい文化に触れる機会を持っていたといっていい。それは数え上げればきりがいないほどだ。家電部門ではカラーテレビ、全自動洗濯機、ビデオ、炊飯器、ウォークマンなどなど。

 私が入学したころ、大学の中にはオタクと呼ばれる存在が生まれた。彼らの多くは主にアニメ研究会に属していたようだ。のちに萌え系などの造語が作られたように、当初からアニメ研究会の人々はなぜか少女漫画が好きだ。北斗の拳を回し読みしていた我々からすると、彼らは全く異なる人種に映っていた。大学の研究室にあった当時数百万のビデオデッキに、素人が作成したアニメーションのビデオテープを入れて、撮影会と称して無理やり見せられた。彼らの「すごい」とか「ここはよくできている」といったコメントの意味が全く理解できなかったのを覚えている。そのころの大学は60年安保闘争から大きく脱却していて、政治的な話に耳を傾ける学生は既に絶滅していた。オタクは彼らが絶滅したキャンパスに新たに誕生した人種といえるのかもしれない。

 私が大学を卒業するころにはビジネスパソコンの普及が始まっていた。NEC-PC9801の登場である。研究室に設置されたパソコンにプログラムコードを打ち込み、研究室の主題であるソフトウェアを作成していた。おそらく私よりも上の世代から見れば、我々こそがオタクであり、理解不能な存在に見えていたかもしれない。そこに1960年の断層が存在していたせいなのだろう。

 1960年の断層は確かに存在する。断層のすぐ隣にいる私が思うのだからこれは事実だと思う。しかし、なぜこの断層ができたのか。そこに複合的な要因があることは否めない。文化的あるいは技術的あるいは政治的な要因もあるだろう。この本はその中から主に文化的要因について触れいている。しかしこの本を読んだだけではその現象しかとらえることができないと思う。実際には、この本はアサツー・ディ・ケーの調査結果をまとめて掲載しただけであり、データから引き出される考察はあまり含まれていない。
 もしこの本よりもっと深い考察を参考にしたいなら、以前出版された下記の書籍をおすすめしたい。いずれも岩村暢子氏の著作または監修である。
『普通の家族が一番怖い』
『変わる家族、変わる食卓』『〈現代家族〉の誕生』
 おそらくこれらの書籍を読むことで、断層を作った地殻の圧力は、主に戦争によるものであることが分かっていただけると思う。

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