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真実を知ることに情熱を注ぐということ 『知の逆転』 吉成真由美インタビュー編

知の逆転 (NHK出版新書 395)

おしまいのページで、編者はあとがきとしてこんな風に書いている。

297ページ
 このインタビューは、「この人たちに会うまでは……」という、ある情熱のようなものから生まれました。
 ダイアモンドは静謐にして鋭い室内楽、チョムスキーは鮮明にして華やかなオペラ序曲、サックスはカラフルで心地よいジャズ、ミンスキーは一つのテーマにクールに焦点を当てたソナタ、レイトンはドキドキするほど生きのいいロック、そしてワトソンはサイエンスを基にしたコンチェルト、といった感じでしょうか。

 現代最高の知牲は世界をどうとらえているのか。人類は正しい方向に進んでいるのか。そんな大局的な問いに答えてくれる良書だと思う。
 この本に登場する知性は6名。その中にジャレド・ダイアモンドの名前を見て、この本は人文系の書籍だと思う人も多いかもしれない。しかし、内容としては科学技術に関連する議論が大半を占めている。この本の編者である吉成氏は、分子生物学者でありノーベル賞受賞者である利根川進の妻である。私がこの事を知っていれば、この本が科学技術寄りの本である事を予測できたかもしれない。しかし、その様な思いにはまったく至らなかった。だから読んでから初めて気づいたのである。この本が理系向きであるという事を。

 本に登場する人物は、みな知の巨匠である。だから反論するべくもない。だが、どうしても反論したくなる箇所がある。それは、人工知能を専門とする認知科学者マービン・ミンスキー氏の以下の発言である。

174ページ
 ホンダをはじめとするいろいろな会社が、見栄えがいいロボットを作ってきたわけですが、そういうのは笑ったり動いたりするだけで、実際には何もできない。既に30年を浪費しているにもかかわらず、いまだに研究方針に変化の兆しも見えない状態です。本当に残念です。

 私はこの箇所を読んで本当にがっかりしてしまった。人間の知能の働きには身体性が大きく影響することを、以前何かの本で読んだからだ。もちろん、それはミンスキー氏の著作ではない。しかし、この事は認知科学の分野では常識になっていると思ったのである。つまり、ホンダなどが開発している人型ロボットはさぞかし、認知科学に貢献しているだろうと期待していたのだ。どうやらそうでもなさそうである。

 しかし、いつかは人型ロボットが人間の役に立つ日が来るに違いないと私は思う。福島原発事故でロボットが使えなかったのも、人に合わせて設計された構築物内に既存のロボットが入って作業するのは困難だったからであると聞く。人がやすやすと小さな瓦礫を越えることができても、タイヤやキャタピラで動くロボットには大変な困難となるのだ。
 それにしても、ロボットに合わせて設計された社会というのは想像するのもおぞましい。やはり、ロボットが人に合わせた設計となるべきなのだと思う。

 こんなふうに、反論を試みながら読むのもよいだろう。そして、知の巨匠たちに共通する何かを見つけるだけで、この本の価値は数倍にもなるのではないか。

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