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歴史修正主義の本質 『永続敗戦論』 白井聡著

永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)

 2013年12月に安倍首相が「痛恨の極みであった」として靖国神社に参拝した。米国が即座に「失望した」とコメントしたことに対して、日本の外務省が動いた。しかし、その後も日本国内では籾井NHK会長の発言や百田氏の発言、あるいは維新の会が河野談話の見直しを求めるなど、そのさまは歴修正主義者たちがあたかも地中から俄かに這い出したようだった。
 春でもないのに、なぜ彼らは蠢きたっているのだろうか。そもそも、この歴修正主義と呼ばれる行動に、一部の国民たちはなぜ取り憑かれるのだろうか。
 日本の右傾化に対して警戒する海外勢をよそに、右翼的と言われる彼らの言動、あるいは彼らの本質がなんであるのかを私は考えてみた。根拠に乏しく国益にもかなわないこれらの言動の軸と呼べるのものがそこにはあるような気がしてならなかった。そして、この本を読んだ時ときにその軸と呼べるものが、やっと見えてきたような気がする。

 『永続敗戦論』というのは著者である白井氏の造語である。この「永続敗戦論」の概要をを知るためには、猿山を例に取ると分かりやすかいもしれない。
 かつて太平洋という猿山でアメリカザルとニホンザルが喧嘩をしたのである。結果ニホンザルは負けた。だから、それ以降猿山太平洋のボスザルはアメリカザルであり、ニホンザルはボスザルの配下にいるNo2の猿となった。本来であれば、ニホンザルはこの猿山から抹殺される。しかし、アメリカザルは猿山太平洋の覇権を維持するために、喧嘩をしたニホンザルをNo2に据えたのだ。No3は喧嘩ではニホンザルに負けた韓国ザルである。
 なぜボスザルであるアメリカザルはこのような体制をとったのだろうか。それは、猿山太平洋の向こう側にある猿山、つまり猿山共産圏の脅威を阻止するために他ならない。
 しかし、負けたニホンザルは韓国ザルには勝っている。そのことを考えると、猿山太平洋のNo2でありながら、実はボスザルに対して負けたという事実は都合が悪い。そこで、ニホンザルは考えたのである。もともと喧嘩をして負けたからではなく、最初から主従関係があったことにしよう。つまり喧嘩に負けたという記憶は消し去ってしまおうと。
 この目論見は一見うまくいっていた。敗戦を終戦とよび、A級戦犯を靖国に祀ることで、ニホンザルは負けた事実を自らの中で正当化し、負けたことの代償をアメリカザルに対する従属のみによって果たしているとしたのだ。そのことで、中国ザルや韓国ザルたちと過去に戦ったことで彼らに与えた損害を帳消しにしようとした。あくまで韓国ザルは格下であるという事実を保つことが目的である。
 日本の戦後を猿山に例えるならつまりそういうことではないだろうか。

 しかし、周りの猿たちの意識からニホンザルが負けたという記憶を消すことはできない。韓国ザルたちはこの事実を利用して、ニホンザル>中韓ザルという主従関係を突き崩そうとている。ニホンザルはボス猿に負けたのであり、結果的に韓国ザルにも負けたのだ、という事実を認めさせようとしているのだ。この事実を認めることは、ニホンザルにとっては屈辱である。過去においてニホンザルが負けたのはアメリカザルとの戦いにおいてのみであり、韓国ザルとの戦いでは勝っているのだから。

 これまで私が語ってきたことは、この『永続敗戦論』の断片でしかない。この本ではもっと深いところまで明らかにしている。日本が第二次世界大戦を総括できないのはなぜなのか、あるいは、今になってなぜ日本は歴史を修正したがるのか、という疑問を持った方にオススメの本である。

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