日本は再び軍国主義になるのか 『100年予測』 ジョージ・フリードマン著
影のCIAと呼ばれている著者が、今後100年を地政学的に予測した本である。この本は米国でベストセラーとなったらしい。当然である。何しろアメリカが今世紀も帝国として世界に君臨するということを前提としているのだから。これほど米国人に気持ちがいい本はないであろう。
確かに最近の中国の動向をみていると、いかに人口が多く経済成長率が高いと言いつつも、中国の経済力がアメリカのそれを超えることはなさそうだ。ロシアも経済成長が著しいが、やはりアメリカを超えることは難しい。アメリカの衰退が叫ばれて久しいのだが、著者はそれが一時的なものであると一蹴している。地政学的に見れば、太平洋と大西洋に接するアメリカはシーレーンを確保できる優位さで勝っている。だから、アメリカは今後も海洋を支配し続けることで、世界の覇権国家であり続けると言う。
この本で一番気になるのは、日本がどうなるのかということである。著者によると、日本は孤立しやがて軍国主義に移行するという。
215ページ
日本は当初、経済的手段を通じて必要なものを得ようとする。だが移民に頼らずに労働力の拡充を図ろうとする国は日本だけではないし、海外のエネルギー資源の支配をもくろむ国も日本だけではない。ヨーロッパ諸国も地域的経済関係の構築に色気を示すはずだ。中国とロシアの分裂した諸地域は、これ幸いとのヨーロッパと日本を争わせ、漁夫の利を得ようとするだろう。
日本にとって難しいのは、このゲームに負けるわけにはいかないことだ。日本の求めるものと、その地理的位置を考えれば、東アジアに影響力を行使する以外に道は残されていない。だがここに影響力を行使するれば、間違いなくいくつかの抵抗に遭う。第一に、何年も前から反日運動を展開している中国政府は、日本が中国の国家としての統一性を意図的に損なおうとしていると考えるだろう。さまざまな強国と同盟関係を結ぶ諸地域は、互いに優位に立とうとする。このようにして日本の利益を脅かすおそれのある複雑な抗争が生じるため、日本は思った以上に直接的に干渉せざるを得なくなる。そして最後の手段として、軍国色を強めるのである。遠い先かもしれないが、いずれ必ず軍国主義が復活する。2020年代から30年代にかけて世界の強国が存在感を強める中で、中国とロシアがますます不安定化すれば、日本も他の国と同じように、自国の権益を守らなくてはならなくなる。
この展開にはある程度説得力があると思う。というのも、中国やロシアが軍備を増強すれば、それに呼応するように日本も軍備を増強せざるをえないからだ。そうしなければ、エネルギー資源を海外に頼る日本にとってはリスクが高くなる。著者によると、日本はやがてエネルギー輸入のためのシーレーンを確保するため、インド洋を巡回するようになるという。
また、日本はトルコおよびポーランドと同盟を組むようになる。アメリカは日本に警戒感を示し、日本、トルコ、ポーランドと対立するようになるという。アメリカは各地域のパワーバランスを保つように、牽制する。従来よりアメリカは他国の政権に介入しながら、地域のパワーバランスをコントロールしてきた。アメリカは常に他国からの侵入リスクという恐怖を原動力として、自国の覇権を維持している。この本に貫かれている著者のそのような論点から考えるなら、アメリカの取るべき選択肢はこの本に書かれた予測の通りになるかもしれない。
果たして、この本にあるように、本当に日本は再び軍国主義に陥るのだろうか。過去に日本がなぜ軍国主義になったのかを思い起こすと、あながちあり得ないことではない。いや、むしろそれは資源を持たない日本の宿命と言えるのかもしれない。
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