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そしてAIからロボティクスへ 『クラウドからAIへ』 小林雅一著

クラウドからAIへ

 先月、オバマ大統領が訪日したとき、ホンダのアシモとサッカーの対戦をしました。このことは人々の話題となりましたが、オバマ大統領の目的は、実はアシモではないのではないか、と言われています。オバマ大統領が本当に見たかったのは、アシモではなくグーグルに買収された日本のロボットベンチャーSCHAFTが開発したS-Oneであると………

〓 クラウドはもう古い?

 ニコラス・カーが書いた書籍『クラウド化する世界』が日本で発売されたのは、2008年10月でした。世の中がグーグルに代表されるクラウドサービスで大きく変化することを予測したこの本が発売されてから、既に5年と半分くらいが経っています。この間に、クラウドサービスは日常に浸透して、当時ニコラス・カーが予測した「クラウド化する世界」は既に到来しているかに見えます。現在、クラウド上に蓄積されたビッグデータが活用されるようになったのです。私たちは今、ニコラス・カーが予言したように、クラウド化した世界で生活していると言って良いでしょう。
 これでクラウド化する世界が現実のものとなったとするなら、次に来るのはどんな世界でしょう。その次なる世界を予測しているのがこの本『クラウドからAIへ』です。

〓 人工知能の変遷

 この本では、コンピューティングリソースの中にありながらも、クラウド化する世界とは独立して発展してきたAIのたどった道を、下記のように紹介しています。

1956年 論理によるAIの構築
    ルールベース、論理への過信→1970年に衰退

1980年 エキスパートシステムへの応用
    ルールベースの限界→1992年に衰退

2000年 ビッグデータを使った統計的手法(ベイズ理論)
    統計的手法の限界

2006年 ニューラルネットワークからディープ・ラーニングへの移行
    現在に至る

 2000年代に一度ビッグデータと融合するかに見えたAIですが、その後、ビッグデータという知識の混沌の中から生み出されるAIは限界を見せました。統計的手法により生み出されたAIは、結果的に人類がもつ思考を模倣することはできなかったのです。
 この統計的手法に代わり、2006年にAIの技術者は、実は古くからあるニューラルネットワークに注目し採用します。そこに知識の階層レベルを追加したのがディープ・ラーニングという進化したAIです。
 ディープ・ラーニングはその名称から分かるように、学習するマシンです。つまり、人類の思考パターンを模倣するのではなく、学習する脳の仕組みそのものを機械化しています。これによって、AIの可能性は飛躍的に伸びました。

〓 人工知能は進化している

 人類と対等に勝負するチェスマシン(IBMのディープブルー)が、その対戦相手を負かしたのは、1997年でした。その出現から現在、将棋で人類に勝るマシンが出現しています。しかも、このマシンはスパコンではなく、一般に販売されているパソコン上で動作します。最近になり飛躍的に能力を向上したこれらの対戦システムは、ディープラーニングを採用しています。将棋におけるコンピュータと棋士との対戦は電脳戦とよばれ、最近はコンピュータが棋士と対等に勝負できるようになっているのです。
 それでも、囲碁においてはまだコンピュータが人類には及びません。やがて囲碁の勝負でコンピュータが人類を負かすようになったとき、現在多くの人々が生業としている知的作業さえもコンピュータによってなされるようになるかもしれません。

〓 進化した人工知能を搭載するロボット

 著者はビッグデータに代表されるクラウドの先にあるものがAIの活用であると断言します。AIは最終的にはロボットに搭載される技術であると予想されます。その前段階として、現在は自動翻訳や自動車の自動運転に利用されています。
 特にグーグルがロボット企業やAI企業などを買収する動きは、民間におけるロボティクスの活用に一定の現実性を見出しているためといえるでしょう。グーグルは2013年3月にはカナダのDDN社を買収、さらに2014年1月にはDeepMind社を買収しています。
 これらの買収された企業はいずれもディープ・ラーニングというAIの手法を用いた企業です。ディープ・ラーニングはAIを実現する最も現実的な手法と考えられています。

〓 AIがもつ危険性

 ところが、近年のAIの発展は、現実的であると同時に、大きな危険もはらんでいると言います。最新のAI技術であるディープ・ラーニングはそのプロセス自体がブラックボックス化されており、AIが物事をどのように学習しているか、あるいはどこまで学習しているかが外からは見えなくなるのです。つまり、AIが今後より人間の知能に近づいたときに、自らの生存のために人類を排除することも十分あり得ることであると言えます。さらに悪いことに、そうなってからではAIがどのような仕組みあるいは思想で判断しているのかを、人間の側は知ることができなくなっている可能性があるのです。

 たとえそこまで行かなくとも、ロボット兵器に人工知能が搭載されたときに、どこまで人間側の意識が介入できるのか、不明な状態になります。実際に、米国ではロボット兵器に人工知能を搭載することについて、倫理的な問題点を検討している段階です。

〓 米国が推進するロボティクス

 オバマ大統領は昨年、3Dプリンターの普及を鑑みて、米国に製造業を取り戻すとしました。そして、現在は米国でロボティクスを発展させようとしているように見えます。
 アベノミクスがなかなか第3の矢を放てない今、かつてはロボット大国と言われていた日本が、米国にその技術力で追い抜かされるのではないかと危惧されます。はたして、日本がこれまで培ってきたものづくりの技術や、ロボット技術は発展を見せるのでしょうか。もしかすると、日本はすでに産業分野で世界が進もうとしている道筋から取り残されつつあるのかもしれません。
 クラウド化以降の最先端技術が果たしてどこに向かおうとしているのか、日本が再び世界の技術立国として返り咲くことができるのか、その問いに対する答えがこの一冊の本に凝集されています。

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