ウェブ進化論のその後の進化 『ウェブとはすなわち現実世界の未来図である』 小林弘人著
書籍の題名からは内容を想像しにくい。むしろ「ウェブ」というキーワードを見た時に、この書籍の論点は古いのではないかと疑ってしまう。もしこの本が、インターネットの黎明期について語っているのであれば、ビジネス書としてではなく歴史書と見なすべきかもしれない。
そう思いながら読み始めたのだが、この本は歴史書でもなければ技術書でもない。どちらかというと、梅田望夫氏が書いた『ウェブ進化論』の続編と言えるかもしれない。現実社会を模倣しながら発展したWeb2.0が、今は現実社会と融合しつつある。今後は、現実社会がウェブをコピーするだろうと、著者である小林氏は予測している。
小林氏がこの書籍のなかで一貫して述べているのは「ヒューマン・ファースト」ということだ。つまり、インターネットによって趣味的ビジネスの共創が可能となった、あるいは、中抜きによって消費者と生産者が直結されるようになった、そして、SNSによって空間にとらわれない人と人との結びつきが可能になったこと指しているようだ。ウェブ上に構築されたあちら側の世界はそれだけでは成り立たず、人と人がウェブを経由して結びつかなければ何も起きない。例として、ウェブによって可能となった料理人のシェアやキックスターターなどのビジネス事例を紹介している。どちらもウェブという仕組みをハブとして人々を結びつけることでビジネスが成り立っている。今後は、ウェブにより実現されるシェアやマッチングをいかに活用し現実世界と結びつけるかが重要になるだろう。
この書籍はICT業界の最新事情も含めた現在までの流れを捉え直すために参考になりそうだ。なんといっても、著者はインターネットの黎明期からジャーナリスト的に活動されてきた人物であるだけに、この本を読めば業界の最新事情を広く知ることができるのだ。この本に掲載される中では、グーグルがロボティクスやAIだけでなく量子コンピュータの開発に投資をしているという記載がおそらく最も新しい情報だろうと思う。内容が新鮮なうちにサラリと読むことをオススメする一冊である。
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