The computer is the brain. 『思考する機械 コンピュータ』 ダニエル・ヒリス著
最近すこし驚いたことがある。それはなんと、既に21世紀になってから14年が過ぎ去ろうとしているということだ。こんなことを書くと、むしろ読んだ方が驚いてしまうのかもしれない。しかし、ある程度の年齢の方は同じ感慨に更けることができるのではないか。そういう思いでこの書籍に対する感想を書いていみたいと思うのだ。
この本の出版は2000年10月である。そこで、本題に入る前に、コンピュータの歴史上、2000年はどのような年だったのかを思い出してみたい。
当時は20世紀が終わる頃、ITバブルが終焉を迎えようとしていた。そのころCompaqやSunMicrosystemsはまだ健在だったけど、すこしずつ衰退して行く感じが漂っていた。ちょうどイノベーションのジレンマが発売されたころで、新しいイノベーターの立ち上がりが見え始めたころだった。
Sunは「The network is the computer.」といっていたのを思い出す。そのころMicrosoftはローカルディスクはどんどん容量が大きくなりいずれネットに接続する必要はなくなると述べていた。つまり、Sunのコンセプトを否定していたのだ。しかし、SunMicrosystemsが目指す方向は間違っていなかった
。Sunが衰退したのは方向性が間違っていたからではない。彼らはイノベーションの罠に嵌ってしまったのだ。
1995年に登場したAmazonや1998年に登場したGoogleはいまや市場を牛耳る巨大プレーヤーだ。まさにネットワークが産業構造を変えたというべきだろう。AmazonやGoogleは2000年台に黎明期を迎え、それまで赤字続きであったビジネスモデルが黒字に転換しだした。いずれも、ネットワークの規模が拡大し、それとともに彼らの市場が一気に拡大したのだ。いま、果たしてスタンドアロンで動作させて役立つコンピュータがどれだけあるだろうか。そう考えると、SunMicrosystemsが示した「ネットワークこそがコンピュータだ」というコンセプトは正しかったと言える。
この本からはもしかしたら同様のことが読み取れるかもしれない。それはつまり、未来において、コンピュータは人間と同じように考えるようになるか、とうことだ。つまり「The computer is the brain.」〜「コンピュータこそが最高の頭脳だ」と言えるかどうかである。
私はこの本を読んで、かつてのMicrosoftやCompaqが旧態依然とした企業を買収しながら大きくなり、そして衰退していったことを思い出した。2000年代のことである。そして最後にやってきたIT産業は再び過渡期を迎えている。それは、人類が発明によって自らの能力を拡張してきた歴史の最終章かもしれない。
最近になりGoogleはロボット企業や人工知能に関連する企業を相次いで買収している。ロボティクスは他の産業を飲み込んで一大巨大産業になるであろう。その鍵を握るのがまさに「思考するコンピュータ」つまり人工知能なのだ。人工知能が人類の思考に迫る時期がやがて訪れる。その時、私たちは産業構造だけではなく、人類として大きな転換点を迎えるに違いない。その信憑性は、この本の著者がおしまいのページ近くに書き記した通りなのであった。
269ページ
私の友人には信心深い人々がいて、私が人間の脳をマシンとみなし、頭脳の働きを演算とみなしていることがわかると、ショックを受ける人が多い。一方、科学者である友人たちは、人間がどのように思考するかが解明できる日は来ないと信じている私を神秘主義者と呼んで非難する。しかし、宗教も科学もすべてを明らかにできているわけではない。人間の意識活動は、物理法則が支配する現象と複維な演算によってもたらされると私は思っている。だからといって、人間の意識活動が神秘的でないとか、素晴らしくないと考えているわけではない――どちらかといえば、人間の意識活動を物理法則と複雑な演算の結果と考えることによって、人間の意識活動がより神秘的でより素晴らしいもののように私には見えてくる。ニューロンの信号と知能の間には、我々の理解を超える溝が横たわっている。私は、知性の源を侮辱しようとして「脳はマシンである」と言っているわけではない。私は、マシンの能力の潜在性を認めようとして「脳はマシンである」と言っているのである。人間の頭脳は我々の想像以下のものではなく、マシンは我々の想像をはるかに超えるものである。私は、そう信じている。
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