〓 二度目の挑戦、果たしてできるのか?
前回、意表を突いたウロコデザインで、彫金教室では比較的好評だったにもかかわらず、家族には不評だった指輪制作だったけど、今回は満身創痍で新たなデザインに挑戦しました。指輪の表面に刻印を打つのではなく、形を変形させるデザイン。もともと彫金については素人であるわたしの考えが、果たして形になるのか、どうなのか。やればできるじゃん、というのが今回のレポートです。
前回の制作は、表面に四角い刻印を並べたものでした。その後、自分の頭に浮かんだのは、指輪の板状の接合点を折り曲げるデザイン。頭の中の形を紙にデッサンして、これはいけそうと思ったのです。それを説明のために、細長い紙を折り曲げて、彫金教室の当主に見せてみました。
「うーん、おもしろいけど…時間がかかりそうですね」
「そうですよねぇ。こんな形でもいいんですけど、とにかく折り曲げたいんです!」と私。ちょっとわがままがすぎなかい?と思いつつも、なんだか当主も乗り気な感じで、なんとかいけそうな感じ。
「間に銅を挟むというのは?」と当主。「それですよね!」と私。意気投合。これはやるっきゃない。そもそも、刻印するのではなく、形を変形するという、3時間ばかりの作業工程では反則技に近いのだが、両者即断即決で、「やりましょう」となった。板を曲げるだけなのだが、これが以外と難しい。この発想、素人だから思いつくことだったのかも知れません。
最初に指示されたのは、折り曲げるポイントに溝を掘ること。そうしないと、比較的柔らかい金属である銀といえども、完全に折り曲げることはできないらしいのです。重要なのは折り曲げる角度。紙で何度かシミュレーションした私にとって、それは60度と決まっていたのでした。しかし、ここは目検討で、だいたい60度。ほぼ60度。時間がないので、四の五の言ってられない。角度が決まったら、四角い棒状のヤスリで溝を掘る。90%くらいまで掘る。ひたすら掘り続ける。しかし、あまり掘りすぎると、曲げたときにポキリと折れるらしいのです。そんなことになったら心も折れてしまいそう。慎重にしかし大胆に、ひたすら溝を掘り続けるのでした。
つぎにやるのは、掘った溝の角度を広げること。これが以外と難しい。面が広くなると、ヤスリが滑ってすぐにあらぬ所を削ってしまう。当主に手本を見せて貰った。なるほど、きれいに削れている。面が平らかだ。コツは指輪の板の方を強く固定することだそうな。わたしの場合はヤスリの右手の力のいれ加減が強すぎたよう。いろいろ思案して、棒の先の側を板に当てて固定することを思いついた。これなら左手はさほど力がいらない。何事も工夫なのだと思いました。
接合部の一方はあらかた削り終えたので、さっそく折り曲げてみます。折り曲げる前に火で膾す。火で膾すと、その表面に、またあのパールホワイトの艶めかしい色が顕れます。やはりこの色が欲しい。
そうやって、苦労を重ねて形を重ねてつくる。逆側も同様の作業を繰り返します。同じ要領だから今度は早い。折り込んで念願の形に近づくまで約90分の作業でした。
さて、いよいよ短く切った銅板を挟み込みます。ここにこそこだわりが必要。ここは適当ではいけない。銅を挟んだ板が一体に見えなくてはいけない。ほかは適当でもここだけはきっちと決めてもらいました。つまり当主にやって貰った。なかなかいい感じです。
接合部の形が決まったら、バーナーで焼きながら接着する。ここも当主のおしごと。なんだかんだいって、さすがに重要なポイントは当主にやってもらっているのでした。
夢中になっていたので気が付きませんでしたが、実はこんな無謀なことをやっているのは自分だけでした。ほかのメンバーは刻印を打っているなか、なんともわがままな生徒がひとりいたものだ。そんなものだから、教室のなかで注目の的になりました。何か変なことをやっているやつがいる。みたいな。
形になってみると、すこしリボンの様に見えないでもない。完全に女性向けのデザインになってしまいましたが、まあこれはこれでよし。
最後に指輪を磨く。磨きの作業はお弟子さんとみられるお姉さんにやってもらいました。艶消しにするか光沢をもたせるか。一度光沢で仕上げて見せてもらう。三秒考えて、やはり艶消しにしました。形を主張するために素材は少し控えめにしてもらうのがいい。こんな小さなものでも、全部が主張しだすとなぜか安っぽく見えるから不思議です。
想像が形になるというはやっぱり素晴らしい。それが不完全であればなおさらのことです。今回出来上がった指輪は、結局おじさんが指にはめるような代物ではなくなっていました。というわけで本作品は私の同居人のものに…。
今回のは失敗作?というわけではないということを願って、次回は最初から人に贈るつもりで作りましょう。というか、やっと人に送れるものが造れそうな気がしてきました。
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